消費税増税であぶり餅の価格表示はどうなる?

消費税増税・軽減税率の導入によりお店での値段表(価格表示)はどのようにしたらよいでしょうか。「名物あぶり餅」を販売している架空の老舗を例に考えてみましょう。飲食店を営業されている方などの参考になれば幸いです。

「名物あぶり餅」とは

架空の老舗の名前を「いいだ屋」としましょう。有名神社の門前に店舗があり、創業何百年とか。いいだ屋のメインメニューであり唯一の商品は、「名物あぶり餅」。炭火で香ばしくあぶったきなこ餅に、甘いタレを絡めて食べます。餅は店頭であぶるため、良い匂いが、参拝などに訪れたお客さんを惹きつけ、大変人気です。客は店内で腰をおろして食べることもできますし(店内飲食)、お餅を紙に包んでもらって持ち帰ることもできます(持ち帰り)。その比率は店内飲食7、持ち帰り3ということにしましょう。

現行の価格表示

「名物あぶり餅」の値段は、店内飲食も持ち帰りも、いずれも1人前、消費税込み500円というシンプルなものです。お店の軒先には現在、下記のような価格表示をしています。お客さんからしたらワンコインで買えるわけです。

この価格設定そして価格表示ならば、店頭の売り子さんも、通常の場合、代金もお釣りも暗算で計算できるでしょう。

ちなみに現在、消費税込み500円であるということは、税抜価格(本体価格)463円に108%を掛けて税込価格500円を算出しているのです(463円×108%=500円)。

「店内飲食10%、持ち帰り8%」に

さて、来年10月に消費税増税・軽減税率が実施されれば、客が店内で食べれば標準税率(10%)、持ち帰れば軽減税率(8%)の税率が適用されることになります。いいだ屋も例外ではありません。この場合、いいだ屋の上記の価格表示はどうしたらよいでしょうか。

国が示している具体例をもとに、増税後の、いいだ屋の価格表示を示してみます。いくつかの選択肢があります。

①店内飲食と持ち帰りの両方の税込価格を表示する方法

下記のように来年10月からは、税抜価格463円に、それぞれ異なる税率をかけて税込価格を計算します。

  • 店内飲食 463円×110%=509円
  • 持ち帰り 463円×108%=500円

したがって上記のような価格表示になります。お客さんに対しては店内飲食の場合も持ち帰りの場合も支払総額が示されている点は親切な印象を受けます。お客さんもどちらにしようか容易に比較検討することができるのではないでしょうか。

しかし、これによって現行のシンプルな価格表示は失われました。店内飲食の場合は9円という端数が生じますので、お店側にはお釣りを用意する手間も増えることでしょう。

また、お客さんからすると、いったいいくらの消費税を払うのかが一見しただけでは分からないというデメリットもあるかと思います(税込価格を表示する場合に共通)。支払い後にもらうレシート等により、どちらの税率が適用されているのか確認することが必要になってくるでしょう。

②店内飲食か持ち帰りかどちらか片方のみの税込価格を表示する方法

「持ち帰りの場合はいくらなんだ?」というお客さんの声が聞こえてきそうな価格表示です。たしかに注意書きはありますけれど・・・。

いいだ屋のように店内飲食の客だけではなく、持ち帰りの客も一定数いるような場合には、不親切な価格表示といえるでしょう。

国の説明では、「どちらか片方のみの税込価格を表示する方法」を採用する場合の具体例として次のようなものをあげています。

  • 「テイクアウト等」(=持ち帰り)の利用がほとんどである小売店等において、「店内飲食」の価格を表示する必要性が乏しい
  • 「店内飲食」の利用がほとんどである外食事業者において、「テイクアウト等」の価格を表示する必要性が乏しい
  • 「テイクアウト等」と「店内飲食」両方の価格を表示するスペースがない

いいだ屋の場合、いずれの場合にも当てはまりそうもないので、この価格表示の方法は採用しないほうがよいでしょう。

③店内飲食にも持ち帰りにも同一の税込価格を設定、表示する方法

これは一見、現行の価格表示に似ていてシンプルな印象を受けます。店内飲食の場合も持ち帰りの場合もお客さんの支払う金額は500円というわけですから。しかし、これは実際には、下記のように異なる税抜価格(本体価格)を設定し、結果として税込価格が同額になるようにしているのです。

  • 店内飲食:  455円(本体価格)×110% =500円
  • 持ち帰り:  463円(本体価格)×108% =500円

したがって、消費税について詳しいお客さんから「なんで同じ名物あぶり餅なのに、店内飲食の場合と持ち帰りの場合で本体価格が違うんだ?」という質問が来ないとも限りません。

そのようなお客さんに対しては、「持ち帰りの場合は、包装代がかかるので高くなっています」「店内飲食の場合はお餅の量を少し減らしたのでその分、安くなりました」など、いいだ屋が説得力ある説明をしなければならないかもしれません。

また、この場合でも、いいだ屋は、店内飲食分と持ち帰り分を区分して経理しなければなりません。そうでないと、確定申告で消費税の適正な金額を計算できませんので。

④税抜価格を表示する方法

①から③までの方法はいずれも消費税込みの価格を示す方法でした。2021年3月31日までは、現に表示する価格が税込価格であると誤認されないための措置(誤認防止措置)を講じていることを条件に、税抜価格を表示する方法も認められています。

この価格表示方法だと、本体価格と消費税額が分かるのはよいと思いますが、やはりシンプルさは失われています。

(なお、この記事と冒頭の写真とは関係ありません)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする