京都市・宿泊税に関する素朴なギモン

京都市で10月1日から始まる予定の宿泊税。

事業者(旅館業者・民泊業者)が宿泊者から徴収することになっています。事業者が宿泊税を徴収できないケースに関する素朴なギモンがあります。

宿泊者が宿泊税を払うことを拒否した場合は?

1点目。もし宿泊者が宿泊税を払うことを拒否したとしたらどうなるのでしょう? 宿泊税の周知徹底が十分にされていない状況で、とくに外国人旅行者などが宿泊税を払わないと主張するような事態を予想します。

京都市の「宿泊税特別徴収の手引」の19ページには、次のように書いてあります。

実際に宿泊者から税を受け取っていなくても,課税対象となる宿泊があれば,特別徴収義務者には宿泊税を申告納入する義務があります。

すなわち、事業者は仮に宿泊客から実際に徴収できなくても、原則として、宿泊税を市に納めなくてはならないということです。

いわば宿泊税の立替え払いともいえる「義務」が事業者に課せられます。

徴収できなかった宿泊税の取扱いは?

次に、宿泊客から宿泊税を徴収できなかった場合に事業者が負担した(立替えて市に納めた)宿泊税はどうなるのでしょう?

京都市の宿泊税は、地方税法でいうところの「法定外目的税」として創設されました。地方税法に次のような規定があります。

(地方税法第733条の15第3項)

前項の規定によって納入した納入金のうち法定外目的税の納税者が特別徴収義務者に支払わなかった税金に相当する部分については、特別徴収義務者は、当該納税者に対して求償権を有する。

そのまま読めば、事業者(条文では「特別徴収義務者」)は宿泊者(「納税者」)に対して宿泊税相当分の「求償権」を有することになりそうです。

すなわち、事業者は立替払いした宿泊税を宿泊者に請求してよい、ということです。

現実問題として、宿泊者に対してあとから請求できるのか?

「それなら、求償権にもとづき宿泊者に請求したらいいんだな、事業者に損はない」と思われるかもしれません。

しかし、現実問題として宿泊者にあとから宿泊税を請求できるでしょうか。通常の請求作業であれば、まず請求書を相手に郵送したり電話したりしてお願いし、それでも払ってもらえなければ内容証明郵便を送付する。それでも決着がつかなければ裁判などの手続をとる。そんな手順がすぐ思い浮かびます。

一方、京都への観光客は世界中からやってくる人たちです。特に外国から来た人たちにこのような手順が通用するのか。外国では当然、法制度や考え方も違います。言葉も通じないかもしれません。住所だって本当かどうか分からない。そういうことを考えると、宿泊税をあとから宿泊者に請求して払ってもらうのは大変な労力がかかる予感がしてなりません。

いろいろと手立てを尽くしても結局、宿泊者と連絡がとれなかったり、とれたしても支払いをかたくなに拒否されて宿泊税を回収できない事態もあるのでは・・・。

いくら地方税法で「求償権がある」と規定しても、回収できないなら・・・絵に描いた餅のようにも思いますが、いかがでしょうか。

還付・免除の規定もあるが

京都市宿泊税条例には、次のような規定があります。

(京都市宿泊税条例第13条第1項)

市長は,宿泊税の特別徴収義務者が宿泊料金及び宿泊税の全部又は一部を受け取ることができなくなったことについて正当な理由があると認める場合 (中略) においては,当該特別徴収義務者の申請により,その宿泊税額が既に納入されているときはこれに相当する額を還付し,その宿泊税額がまだ納入されていないときはその納入の義務を免除することができる。

このように「正当な理由」があると市長が認める場合には、既に立替払いした宿泊税について事業者に還付できるとされています。また、まだ納めていない場合は宿泊税が免除されます。一見すると、事業者は一安心ですが・・・。

問題はこの「正当な理由」とは何なのかということです。

宿泊税特別徴収の手引」19ページには、次のような記載があります。

【納入義務の免除,還付の理由となる例】

○ 宿泊者や旅行業者が破産,整理等の法的手続に入り支払不能となったため,宿泊税を受け取ることができなくなった場合

○ 宿泊者の死亡,失踪,行方不明又は刑の執行により,宿泊税を受け取ることができなくなった場合

○ 特別徴収義務者が天災等に遭い,宿泊税の支払ができなくなった場合

これは、京都市による「正当な理由」の解釈。上記のような事由があれば、京都市は事業者に対して宿泊税の還付・免除を認めようというわけです。

しかし、この解釈は「正当な理由」をかなり限定的にとらえている印象。例示を読む限り、「法的手続」とか「死亡」「失踪」「行方不明」とかいった事由が宿泊者に生じていなければ、市は宿泊税の還付・免除をしない――そう考えていると推測できます。

求償権を行使しようとしても、例示のような事由以外で宿泊者から宿泊税を拒否された――こういうケースでは、事業者は宿泊税の還付・免除を受けられず、理屈上は、裁判等で決着がつくまでの間は求償権が残り続けるように思われます。

相手に裁判を起こした場合は「必要な援助」を受けられるようだが・・・

なお、事業者が求償権にもとづいて相手(宿泊者)に裁判をおこした場合は、地方自治体(今回のケースの場合は京都市)が「必要な援助」をしてくれる、との規定もあります。

(地方税法第733条の15第4項)

特別徴収義務者が前項の求償権に基づいて訴えを提起した場合においては、地方団体の徴税吏員は、職務上の秘密に関する場合を除くほか、証拠の提供その他必要な援助を与えなければならない。

「証拠の提供」は当然として、「必要な援助」とはどの範囲までなのでしょう。裁判費用や弁護士費用も含まれるのならありがたいと思いますが・・・私見ではそこまでやってくれるとは到底思えません。


以上、宿泊税を徴収できないケースに関するギモンを羅列しました。まだ調査ができていない部分もあることをご承知おきください。先行する東京都や大阪府の状況なども含め調査が進めば、その結果を書くかもしれません。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする